第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「仕方ないですね……。では、新入りの方。本日はわたくしが仕事を教えて差し上げますから、くれぐれも邪魔だけはしないように」
「……はい」
覆面の男たちに正体がバレないように、とっさに裏声を使ったら、蛙がつぶれたみたいな声が出た。
「変な声の方ですね……。ところであなた、杖も持ってこなかったのですか? 」
杖と言われてハッとした。
言われてみれば、目の前にいる覆面の男たちは、身長ほどもある長い杖を一人ずつ持っている。
── うっかりしてた。この人達、魔導士だから……。
杖なんて持つ習慣もないから、準備をすること自体、頭になかった。
「まだ支給されていないのでは? 急にこちらへ来られた方のようでしたし」
男の一人が言った。
「つくづく面倒ですね……」
「確か書庫に古い物が置いてあったと思いますから、見てきてはいかがですか? 」
「そうですか。では、そうしますか……。早く魔法陣に乗ってくれませんか、新入りの方。
あなたにぐずぐずされますと、せっかく時間を早めた実験が遅れてしまうのですよ」
「すみません……」
男に急かされてハイリアが魔法陣の上に飛び乗ると、すぐに八芒星の図面が黒く輝き出した。
白から黒へと景色が一転する。
ぼんやりとランプの明かりが灯る薄暗いアジトに到着すると、縦長に伸びる広い廊下の先には、『神事』を覗いた石造りの扉が固く閉ざされていた。
そこへ向かう間の左右にはアーチ状の通路の入り口があり、その先はぽっかりと穴が空いているような薄暗闇が続いている。
昨日訪れた時と何も変わっていない。
アジトにたどり着くなり、左側へと歩き出した二人の男たちの後について行こうとして、ぐいっと背中側の服を引っ張られた。