第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
『桃くらい食べたければ、あとでまた取って来てやるよ。濡れた服をいつまでも着ていたら気持ちが悪いだろう? 』
『……ほんとに、とってきてくれるのか? 』
『もちろんだ。一緒に取りにいくか? 』
明るい笑顔を浮かべる白蓮に、小さな手が伸ばされた。
『……いく』
大きな手を握りしめた子どもの手が見えたとたん、急に景色が遠のいていった。
霧がかかるようにぼやけていき、小さな手と、二人の青年の姿が遠ざかる。
── これ……、ほんとに夢なの……?
まるでジュダルの記憶のようで、困惑しながらハイリアは浮き立つ感覚の中に呑み込まれた。
暗闇の奥に飛ばされる。
うっすらと目を開けると、薄暗い天井が見えた。
一瞬、夢なのか、現実なのか、よくわからなくなり頭が混乱した。
部屋の中はとても薄暗くて、時間帯もはっきりしない。
ふと、昨夜の時とそっくりだと思った。
視線を動かし見たすぐ隣に、ジュダルの寝顔があってどきりとする。
こちらへ身を寄せ付けながら、体を丸くして目を閉じていた。
そういえば、彼の部屋に連れてこられて、そのまま眠ったのだったと思い出す。
ジュダルが昨夜のように起きているのではないかと、少し緊張したけれど、スースーと落ち着いた寝息が聞こえて、本当に眠っているのだとわかった。
よく見ると、髪の結び目は解かれているし、白い寝衣も着ていて、昨日とは違うことに気づく。
── さっきのは、あなたの記憶……?
穏やかな寝顔を見つめながら、不思議な夢を思い出していると、耳にわずかに小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「もしかして……。もう、朝なの……? 」
てっきり夜かと錯覚していたけれど、違うみたいだ。
窓辺がほんのりと明るいことに気がついて、時間帯を理解した。
ジュダルに、ここへ運ばれてきたのは午前中だったはずだ。それからずっと眠り、ほぼ丸一日眠っていたということなのだろうか。
── 私……、そんなに寝ちゃって……。
知らぬ間に時が過ぎていて、実感が湧かなかった。
けれど、しっかり休んだからか身体は軽いし、マゴイも充分満ちている。
あの時感じた、妙な胸の痛みも消えていた。
── 何だったんだろう……、あの胸の痛みは……。
身体の調子がおかしかったから、だったのだろうか。