第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
『何をやっているのだ、おまえは? 』
『はくゆう……』
『こんな所で跳びはねていたら、どうなるかくらいわかるだろう! 』
『…………』
怒られたからか、その子はすぐに青年から目を逸らして黙り込んでいた。
足音が聞こえて、目を向ける。
朗らかな雰囲気をもつ、短髪の青年が『兄上』と呼びながらこちらに駆けてきていた。
この人にも口元の左にホクロがあり、白龍や白瑛と似ている。
── あれ、もしかして……、この二人は……。
初代皇帝には白龍と白瑛の他に、二人の御子息がいたことを思い出した。
『あー、いたいた……って、びしょ濡れじゃあないですか! いったい何があったんです……? 』
駆けつけてくるなり、短髪の青年は、白雄とこちらを交互に見ながら驚いていた。
『池に落ちていた。いつもの従者どもは側にいないのか、白蓮? 』
『いないですよ。走って逃げたのはジュダルの方ですから……。また、白龍を泣かせまして……』
── え? 今、ジュダルって言った?
戸惑う中、白雄がこちらを見つめ、ため息をつく。
『……お前たちは、また喧嘩をしたのか? 』
『だってあいつ、おれのモモ、かってにたべたし……』
不機嫌な声が響いた。
その高い声は、今のジュダルとは全く違うのだけれど、言われてみれば口調が似ていなくもない。
『おまえの方がお兄さんなのだから、少しは許してやれって……』
『いやだ。あれは、おれのだった! 』
『そうだな。でも叩いたおまえも悪かっただろう。一緒に行ってやるから謝ろう、な? 』
手を差し出す白蓮が見え、その子は黙り込んでいた。
なぜか厳しげな白雄の方に視線を移し、『ちゃんと謝ってこい』というような表情を仰ぎ見てから、白蓮に目を戻す。