第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
近づいてきたルフたちに、その子が腕を伸ばしたとたん、掴まれないように悪戯に距離を置いたルフの姿が見えて、思わず笑ってしまった。
動き回るルフを捕まえようと小さな手が伸びるが、逃げられる。
近づいては距離をおき、距離をおいては近づいてと、からかうようにルフたちがその子の周りを飛び回っていた。
ルフに遊ばれているうちに、ムキになったらしいその子の足取りが、だんだんと駆け足になっていく。
『くっそ、まてー! 』
とうとうその子が走り出すと、ルフたちが白い光をきらめかせながら逃げ出した。
色鮮やかな魚が泳ぐ、池の縁に沿ってルフが飛ぶ。
それを追いかける子が、水面を囲む岩場を駆けて、跳びはねる。
真っ白な光が茶色い岩場を走り、時々旋回して水面を飛び交い、するりとその子の足元をくぐり抜けていった。
翻弄するように飛び交うルフに、その子が勢いよく腕を伸ばしたとたん、急にぐらりと身体が傾いた。
視界に大きな水面が迫る。
『うわっ!? 』
声と共に、大きな衝撃が身を包んだ。
ドッボーンと音をたてて落ちた先で、魚と目合う。
慌てて逃げ出していったその姿を見て、その子は驚き息を吐き出してしまったようだった。
ごぼごぼと泡立つ大きな気泡が視界いっぱいに見え、もがく小さな手が光る水面を捕えようと腕を伸ばす。
中々、その上に上がることができなくて、溺れてしまうと焦りを感じた時、黒い影が水面に現れて、勢いよく身体が引かれた感覚がした。
水の中から引きずり出され、放りだされるように岩場に座り込む。
咳き込んだその子が視線を上げると、いつの間にか知らない青年が服を濡らして側に立っていた。
背の高い青年は、凛々しい目つきをしていて、左口元にホクロがある。
誰かと似ていると思って、白龍や白瑛とそっくりなのだと気がついた。
助けてくれたその人は、とても厳しい表情を浮かべていた。