第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
なんだか、落ち着きのない子どもに振り回されているような気分だ。
岩の間を跳びはねる、その子の側には誰もいない。
足元に小石を見つけると、池に蹴り落としてその子は立ち止まる。
逃げ出した魚の上にできた水の波紋を見つめ、近くに咲いていた赤いサザンカの花をむしり取ると、座り込んで池に一枚ずつ花びらをちぎり落としていた。
水面に落ちて浮かんだ花びらに、魚たちが口を開いて近づいたが、揺らしただけで食べはしない。
それがつまらなかったのか、手元に残った花を池に投げ捨てると、また立ち上がって連なる岩場を歩き始めた。
植木の側に枝を見つけて拾い上げる。
拾ったそれをガリガリと岩に押し付けながら歩き、池の縁から地面に跳び降りると、座り込んで土を枝でいじり始めた。
枝先で地面を削り掘り、丸い図形をいくつか描いたけれど、すぐにグチャグチャとかき消してしまう。
『やっぱ、むかつく! 』
イライラして枝を放り投げたその子の視線の先に、見慣れた建物が大きく映り、ハイリアは目を見開いた。
── ここ……、煌の宮廷?
池から少し離れた場所に大きな御殿があり、その奥に宮廷がある。
ということは、ここは広い宮廷のどこかにある庭園の一つだろうか。
── だとしたら、この子は誰? あれ……でも、これって夢だよね……?
知っている場所が映ってよくわからなくなる。
まるで現実のように思えるのは、こんなに色鮮やかだからだろうか。
不思議に思っていると、視界の端に白いきらめきが見えて、その子が目線を移した。
何かと思えば、数羽のルフたちだった。
じっとそれを見る目線で、ルフが見えている子なのだと気づく。
ルフたちは突然、その子に近づいてきて、くるくると渦巻くように周りを飛び交った。
声をかけるかのように「ピィー」と鳴き声を上げながら、その子の目の前で羽ばたきとまる。
遊びを誘っているようだった。