第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
目を開けると、真っ暗な闇の中にいた。
── ここ、どこ?
ふわふわと浮き立つような感覚がして辺りを見渡したけれど、どこまでも暗闇しか続いていない。
自分の姿を確認しようとして、はじめて身体が見えないことに気がついた。
何か現実ではない、別のどこかへ迷い込んでしまったのだとようやく知る。
── ああ、そうか……、きっと夢だわ。
そう確信したとたん、暗闇が割れ裂けて、景色が色鮮やかになっていった。
いつの間にか、ハイリアは揺れる水面を覗き込んでいた。
側にはたくさんの岩があり、それが大きく水面を取り囲んでいる。
その中に、何匹もいる魚の姿が見えて、それが広い池なのだとわかった。
赤や白、黄色、黒……。何色か混じりまだらになっているものから、一色のものまで様々な魚が水の中で泳いでいる。
それを見つめている自分の目線は低くて、泳ぐ魚も少し大きく見える。
急に身体が小さくなり、子どもにでもなったかのようだ。
時々、水面を揺らしながら泳ぐ綺麗な魚を見つめていると、誰かのため息が聞こえた。
『おれの、だったのに……』
すねた子どもの声がして、急に景色が大きく揺れ動いて驚いた。
池の中を優雅に泳ぐ赤と白の魚の姿が遠くなる。
目線が先程よりも少し高くなり、立ち上がったのだとわかった。
水面を取り囲む岩に乗る小さな足元が映り、その足が隣並ぶ岩までジャンプした。
夢のはずなのに、岩をけり、跳び越える感触が伝わってきた。
一瞬、本当にこれは夢なのかと混乱したけれど、自分の思い通りには動けないその感覚が、やっぱり現実ではなかった。
どうやら小さな子供になっているようで、その子が次々と岩場を跳び越えて、池のまわりをぐるぐると回っている。