第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「期日……? よく言うぜ、あのままじゃ残り九日なんてもたねーよ。あの呪印のせいで、あいつのルフ、異様に染まるのが早いんだよ」
あれでは何かをきっかけに、いつ変わるかもわからない。
残りを遊ぶ時間も、決して自分から離れることがないように、教え込ませる暇さえなくなりそうで焦りを感じる。
「はて……、あれは印を刻んだ術者に触れられると、術が発動するようになっておりましたが、あの王が玉艶様にお会いになられたのは、たしか二日程前だったはずでは……? 」
「恐らくそれくらいかと。まだ効力は大して出ていないはずなのですが、あの王はそこまで黒く染まりましたか……、興味深いですな」
「たしかにあの呪印は、堕転した者の側にいれば効力が強まる傾向にはありましたが……」
「いつも『マギ』のお側におられるからでしょうか? 」
「っんだよ、俺のせいだってか? 」
「いえ……、しかし、そこまで顕著に反応が出る被験体は、初めてでわかりません。あの王は『十年計画』の被験体の中でも例外ですから。ただ、あの呪印に堕転させる力まではございませんぞ」
「そうですとも『マギ』よ。あの呪印など大した効力は持ちませぬ。好きなようになされませ」
「いいように遊ばれ、あの王を堕転させればよいのです」
── なにが、好きにしろだ……。
結局、親父どもの計画通りに、歯車が回るよう操作されているから腹立たしい。
「ったく、余計なもの作りやがって……。他に何かあいつに仕掛けてねーだろうな? 」
「ございませんとも。心配なされますな、お約束通り、期日内は誰もこちらからは手は出しませぬ」
「だったらいいけどよぉ……」
納得はいかないが、妙な魔法がすでに動いてしまっていることは、もうどうしようもない。
ああいう類の魔法は、解除方法なんてものはない。
動き出したら、印に刻まれた魔法が役目を終えるか、印が壊れるか、宿主が力尽きるかでしか止まらない。
ようは、あいつが堕転するか、力尽きるまで止まらないということだ。
── 面倒くせぇーな……。
胸を押さえて苦しんでいたハイリアの姿を思い出して、胸が疼いた。