第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
── ハイリア、おまえ……、まさか俺に何か隠してるのか?
気に入らなく思えて、ジュダルは顔をしかめた。
乾いた血がこびりついたハイリアの傷痕を見つめ、苛立ちを感じてその傷に舌を這わせた。
舌先にマゴイを宿し、傷をなぞる。
深く切れたところを押すと、眠るハイリアが眉を寄せた。
「少し荒療治だ。我慢しろ」
一つずつ傷に沿ってなぞり、赤い痕を塞いでいく。
緩やかに息をしていたハイリアから、乱れた吐息が漏れ出した。
── 俺に隠し事とは、いい度胸だな。
ぐっと押し付けるように傷を舐め上げると、ハイリアは顔を歪めて身体を震わせた。
闇を生み出していた八芒星の印が頭に浮かび、腹立たしさを感じてさらに舌先に力を入れる。
── 何してんだか知らねーが、俺から離れることは許さねーぞ。
呻くような荒い息が漏れ出して、ハイリアの身がよじれる。
痛みに耐えている表情は、快楽の感覚に耐えている時のそれと似ていて、気持ちが高ぶった。
乱れる姿は、さらにいじめてやりたい気分になり、ぞくぞくとする。
面白くなって続けると、ハイリアは身体を小刻みに震わせて、喘ぐように息を乱していた。
乱れた息づかいを聞きながら、指先に順番に吸い付いて、細かな傷を塞ぐ。
痺れるような血の味を感じなくなり舌先を放すと、白い手に刻まれていた傷はすっかり消えていた。
寝台に寝そべるハイリアは、ぐったりと浅い呼吸を繰り返している。
果てたような姿は見ていて気分が良く、笑みがこぼれた。
「よく頑張ったな。ゆっくり休め」
疲れた表情で眠るハイリアに口づけをすると、ジュダルは部屋を出てまっすぐに別棟へと向かった。