第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「ああ、わかったよ。いてやるから早く眠れ」
伸ばした手を握ってやると、ハイリアはやっと目を閉じた。
わずらわしいような気分になって、どうも落ち着かない。
握っているハイリアの手に巻かれた包帯が見え、そういえば傷を治していないことを思い出したが、寝付き始めたこいつの手を放す気にはなれなかった。
すーすーと寝息が聞こえ始めた寝顔は、苦しんでいた痛みが治まったのかとても穏やかだった。
どこまでも無防備なその寝顔を見ていると、妙な気持ちにさせられる。
こそばゆい、温もりのようなぬるい熱が胸に渦巻くのを感じて、ため息が出た。
「結局、おまえに振り回されてばっかりだな……。おまえがそんなだと遊べねーんだから、さっさと治れよな」
頬に触れても目を覚まさなくなった、警戒心のかけらもない姿に呆れながら、ジュダルは笑みを浮かべた。
無理をしていた分、眠りが深いのだろう。
こんな状態で動いている方が、どうかしているのだが。
気づけば、握りしめていた手からも力が抜けていた。
白さの際立ったその手に巻かれている包帯の結び目を解き、ジュダルは白い帯をはぎ取った。
とたんに、手の平に刻まれたいくつもの傷痕が現れる。
── なんだ、この傷……。
刃物で切れたものとは違う。
何かが複数の物が刺さり、乱雑に切り裂いたような傷痕が、掌全体にあった。
傷はそこまで深くはないようだが、指の間まで切り裂かれている。
「……随分、たくさん傷があるじゃねーか、どうしたら稽古でこんなになるんだ? 」
返答のない真っ白なやつは、穏やかな表情で眠り続けている。
稽古で傷つけたと言っていたが、どうもおかしい。こいつが剣でこんな傷をつくるはずがない。
転んだとしてもこんな傷にはならない。
急激なマゴイの消費といい、この傷痕といい、違和感を覚えた。