第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
扉を開けて中へ入り、奥にある寝台にハイリアを寝かせると、掛物までかけてやったというのに、その表情はひどくこわばっていた。
警戒しているのか、じーっとこっちを見つめたまま、目を閉じようとしない。
「……あのなぁ。今いきなり襲ったりはしねーから、もう少し俺を信用しろよ」
「ほんとに……? 」
不信感たっぷりの眼差しにため息が出た。
「おまえ、ほんと、ひでーな……。さすがに、おまえがそんな身体の時にしようとは思わねーよ……」
「………じゃあ、少し眠るから……、ほんとに絶対、何もしな……っい……! 」
言いながらハイリアは突然、顔を歪めて胸を押さえ始めた。
「どうした? 」
「……なんでも、ないっ」
「隠すんじゃねーよ。なんでもねぇって顔じゃないだろ! 」
「……朝から少し、調子がおかしいだけ。きっと眠れば、治るから……」
「調子がおかしい? 」
妙な胸騒ぎがして、ハイリアのルフを覗き見た。
すぐに黒くよどんだルフの色が見えてジュダルは顔をしかめる。
── こいつ、またルフが汚れて……。
数日前から淡黒色となっているハイリアのルフは、昨日よりもさらに深い黒色へと落ち込み始めていた。
そのよどんだ黒色が、やけに強い場所がある。
ちょうどハイリアが手で押さえている胸の辺りだ。
泥水のような深いよどみの中心から、闇が溢れ出していることに気づき、ジュダルは目を見開いた。
よどみの中心にいるのは、一羽のルフだ。その羽根には、八芒星と『23』の文字が刻まれている。
黒ずんだそのルフからじわじわと溢れ出す闇は、黒ルフが宿す暗黒そのままだ。
闇は少しずつ、ハイリアのルフを黒く染めようと浸食している。
ハイリアのルフたちは自らの表面に白いマゴイの光を灯し、その闇を打ち消そうとしているが、勢いは黒に圧され、黒いよどみを濃くしたり薄くしたりしながら、どうにか今の状態を保っている様子だ。