第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「おまえ、何やった!? なんでそんなにマゴイが減ってんだよ! 」
「…………稽古で少し……、張り切り過ぎただけ……」
「少しじゃねーだろ! マゴイがほとんどつきかけてる! 」
「大丈夫……、もう少ししたら、ちゃんと眠るから……」
机上に広がる書類をぼうっと見つめたまま、置いてある印章に手を伸ばそうとしたハイリアの手を掴んで止めた。
「おまえ、まだ続ける気か? 」
「平気よ、これくらい……。一晩寝れば、治るだろうし……」
「ふざけたこと言ってるんじゃねーよ。もうやめろ! 」
「でも、ここにあるのだけは、今日中に終わらせないと……」
印章を掴もうと力を入れてきたのを感じて、力を込めて腕を押さえ込んだ。
「ねぇ……、離してよ」
「だめだ」
どう考えても、まともに動いていられるような身体ではない。
目の前で動いている奴が存在するから呆れるが、いったい稽古で何をしたのだろうか。
掴むハイリアの手元に白い包帯が巻かれていることに気づき、ジュダルは顔をしかめた。
「それはどうしたんだよ? 」
「……これも、稽古で……、ちょっと剣で傷つけて……」
「おまえが? 」
武具の扱いに慣れているこいつが利き手を負傷するなど、今まで見たこともないというのに。
「私だって、少しくらいドジるわよ……。ねぇ、仕事できないから離して……」
困った様子でこちらを見てきたハイリアの瞳には、いつもの力強さが欠けていた。
明らかに疲れているのに、無理をしていることがわかる。
── また、変な意地はりやがって!
言い出したら聞かないハイリアを、ぼんやりとしている間に、ひょいと腕に抱きかかえた。
目を丸くしているのが見えたが、構わずそのまま歩き出す。