第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「……なんだ? 何かあったのかよ? 」
「ええ、珍しく侵入者がいたようで。逃げられましたが……」
「侵入者ー? ここに入れる奴なんて限られてるだろ? 黒ルフを持たねぇ奴が入れるわけねーんだからよぉ。 また、お前らの中に裏切り者でもいたんじゃねーの? 」
「かもしれませんが……、未だ正体がつかめませぬ。『神事』の際に妙な黒ルフが飛んできて、神官殿の中に入ったようなのですが、お変わりないですか? 」
「……おい、普通はそういうことを、はじめに言わねーか? 」
呆れながらジュダルは立ち上がって、身体の感覚を確かめた。
変なものが身体に入ったと言われると、急に気持ち悪いような不愉快な気分にはなったが、おかしなところはどこもない。
むしろ、調子が良いくらいだ。いつも『神事』のあとに感じる気持ち悪さがなく、身体が軽い。
そういえば、妙な夢を見始めた昨日も同じだったように思う。
── さっぱりわかんねー。昨日からなんか変わったのか?
夢の内容を思い出して、ジュダルは眉間にしわを寄せた。
「どこかおかしなところでも? 」
「いや……、なんともねーよ。それより、おまえらさー、傷を塞いでくれたのはいいけどよぉ。治し方が雑なんじゃねーか? まだ痕が残ってるぜー? 」
いつの間にか包帯が無くなっている腕には、あいつのマゴイが走り刻んだ赤い痕が、まだうすく残っていた。
「それでも時間はかけたのですがね……。いったい何をされたのですか? 」
言われて、ハイリアが発した白い閃光を思い出した。
あいつに悪戯をしかけてマゴイを放たれたことは何度もあるが、あそこまで威力を出されたは初めてだった。
── なんか、いつもと感触が違ったんだよなぁ。妙に乱れてて、鋭いっていうか……。
あいつのマゴイは、もう少し柔らかい感触だったはずだ。
ただ単に、威力が強かったからというだけの理由かもしれないが。
「…………ちょっとバカしただけだ。もう帰っていいだろ? 侵入者とか、どうでもいいし。俺、今、忙しいから」
「ああ、はい……。しかし、まだ正体がつかめぬゆえ、神官殿もお気をつけを」
「はいはい、わかってるって! 俺を襲ってくるような度胸のある奴がいたら見てみたいけどな」
返り討ちにしてやるが、それはそれで面白そうだ。