第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
『よいか、おまえさんに宿る力は、おばばにはどうすることもできん。じゃがのう、それはおまえさんが、ルフと語らうたびに強まっておる。
だから、やめるんじゃあ、もうルフで遊ぶのは……。おまえさんだって、友達が欲しかろう? 』
『……ルフあそばなくて、おともだち、できるー? 』
『できるわい。おまえさんは、優しい子じゃからのう。じゃから、これはもうお終いじゃあ』
そう言って、老婆はそいつの手から白いルフの入ったビンを取り上げた。
ビンを取り上げられたそいつは、戸惑ったように腕を伸ばしたが、返せと叫ぶようなことはしなかった。
老婆の手が持つガラス瓶を見つめ、そこから飛び立った白いルフをじっと眺め見ていた。
青い空へ飛び立った白いルフの姿は、空に吸い込まれるように、小さくなって消えていく。
泣き声はいつの間にか止んでいた。
『酷なことをして悪いのう……。じゃが、おまえさんのためでもあるんじゃあ。わかっておくれ……』
老婆の声が聞こえ、頭が撫でられたような感じがした。
急激に視界がぼやけ始めて、景色が白い霧の中へ遠ざかる。
ふわふわと浮き立つような感覚がし始めた。
── なんなんだよ、いったい……、この夢は?
誰かの記憶のような夢だ。
昨日から見させられている、妙な夢を不思議に思っていると、ぷっつりと視界が一度絶たれた。
暗闇が開けた先に、円状の天井を見つける。
それが、いつもの広間のものだと気づき、目覚めたのだと知った。
「お目覚めですか、神官殿? 」
低い声と共に視界の隅に覆面の男の姿が見えて、微妙な気分になり顔をしかめた。
「おや、お加減でも悪いので? 」
「なんでもねーよ……」
── おまえの顔で、気分が下がったんだよ……。
ため息をつきながら身体を起こすと、耳にざわざわと騒がしい音が聞こえてきた。
何かと思えば、覆面の男たちが広間の入り口付近に集まって、ごった返している。