第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
泣きながらビンを握りしめ、白いルフを見つめているそいつの側に、黒い大きな影が被ってきた。
そいつが後ろを振り返ると、見覚えのある老婆が一人立っていた。
── この婆さん……、昨日の!
昨日見た妙な夢の中で、赤子を抱いていた老婆だ。
ということは、この泣きわめいてうるさいガキは、あのルフを握りしめていた赤子が成長した姿なのだろうか。
── 何なんだよ、いったい……。
どうやら夢の内容が、続いているらしい。
『おばあ……! 』
うるさいそいつが、老婆に駆け込んでいった。
老婆の服にすがりついたようで、視界が暗くなる。
『まあーた、悪ガキどもにいじめられたかえ? だから、もうルフで遊ぶのはやめなさいと、おまえさんに言うたはずじゃがのう……』
『なんでー? ルフいるの、いないうそつくのー? 』
『……それは、他の者には見えんのじゃあ』
『おばあ、みえるのにー? 』
そいつが涙を滲ませながら見上げた先に、困ったような老婆の表情がぼんやりと映った。
しゃがみこんだらしい老婆の顔が近づき、目線が同じ高さになる。
『そうじゃなあ……じゃが、おばばだけじゃろう? 見えぬふりをしておくのじゃあ。おまえさんは目立つ。ルフが見えることが、おまえさんにとって良いことにはならん』
『……ルフみえるの、おかしいのー? 』
ぐずぐずと泣いているそいつがガラス瓶を見つめた。
中では、ビンの底でルフが羽を休めている。
『他の者が見るとのう、何もないようにしか見えんのじゃあ。見えても、見えぬふりをしておくのが一番なのじゃ。このままでは、おまえさんはどんどん村の子らとかけ離れてしまうわい』
老婆のため息が聞こえた。