第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
『ねぇ……、やめよう……、だめだよ、もう言っちゃ……』
女のガキが、びくびくしながら男のガキどもの腕を引くが、面白がってはやす声が聞こえ出した。
「うそつき」と連呼する声が騒々しい。
白いルフの入ったビンをもつそいつの手が、わなわなと震え出す。
泣き出すのだとわかって、面倒くさい気分になった。
『うそつき、ちがうもん!! 』
そいつが声を震わせて泣き叫んだとたん、そいつの身体から真っ白な光が溢れ出してジュダルは目を丸くした。
白い光に引き寄せられるように集まった白いルフ達から、見えない力が勢いよく巻き上がる。
地面に生えた新緑の草花を揺らし舞い上げながら、空気を震わせたそれが目の前にいるガキどもへと向かった。
足元を巻き上げられるように吹き飛ばされたガキどもは、後ろへ転び尻もちをついていた。
何が起きたかわからないのか、地面に腰をついた三人のガキどもは、わんわんと声を上げて泣いているそいつを呆然と見つめている。
突発的に泣きながら、風の魔法を巻き起こしたのだろう。
座り込む女のガキの表情は、すっかり青ざめていた。
『だからやめようって言ったのに……! あのこのまわり、変なことがおこるんだから……! 』
『こらー、何をしておるのじゃあ! おまえたちは! 』
しゃがれた婆さんの怒鳴り声が響き、男のガキどもが顔を引きつらせた。
『げっ、大ばば様だ! 』
『やっべー、逃げるぞ! 』
『まってよ……! おいてかないで! 』
慌てて立ち上がって男のガキどもが走り出し、それを追いかけるように女のガキも走り出して行く。
駆けていく小さなガキどもの背中を見ながら、そいつはまだぐずぐずと泣いていた。