第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「わかってるわよ……」
どこまでもお節介なジンに少し呆れながら、ハイリアは座り込んでしまいたくなる身体を動かして、部屋の外へ出た。
朝議が続けられている宮廷内は、まだ官吏の姿もない。
静かすぎる廊下に思わず笑みがこぼれた。
平和にも感じるこの時間の中で、あんなことが行われていたなんて笑ってしまう。
薄暗い廊下を歩きながら、ふと桜の木の下で寂しそうな顔をしていたジュダルを思い出した。
あれも、『神事』のあとではなかったか?
黒いルフの姿が浮かび、闇の塊から溢れ出していたおぞましい声を思い出して、胸の奥が疼いた。
凍り付くような従者たちの視線が頭をよぎり、目を伏せる。
知ってしまった以上、もう見過ごせない。
触れてはいけないことに、ジュダルが足を踏み入れてしまっているなら止めたい。
確かめなければ、漆黒のルフを宿す巨大な組織が何なのか。
『銀行屋』たちが、あの黒いルフで何をしようとしているのか。
── あのままじゃ、きっと、ジュダルが危ない……。