第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
── なんでジュダルは……。
闇に取り込まれていたジュダルに向けられていた、従者たちの冷たい眼差しを思い出して、胸がずきりと痛んだ。
割れ裂けた闇の塊の中から、崩れ落ちるように倒れ込んでいたジュダルは、意識がないようだった。
まるで『マギ』である彼を、闇の中へ沈めるために行われているような『神事』だ。
── まさか……、あの人達に、あなたは利用されている……?
浅い呼吸を繰り返しながら、急に目が眩むようなめまいを感じて、ハイリアは目を閉じた。
『いけません、こんなところで眠っては! 』
小うるさいアイムの声が聞こえて、目を開く。
腕輪に浮かぶ金色の瞳が見えて、笑みを浮かべた。
「わかってる……、ちゃんと帰るから……大丈夫よ」
拒絶したのに助けてきて、本当にお節介なジンだ。こんなに金属器から現れて、口をはさんでくるジンは他にいるのだろうか。
だるい身体に意識を集中させて力を入れると、ハイリアは服の上にまとっている従者の服を脱いで丸め持ち、入り込んだ部屋の中を見渡した。
客間の一つと思われる部屋には、横長の大きな腰かけや机が並んでいる。
その壁際に小物を収容するスペースを見つけて、重い足に力を入れて立ち上がり、そこへ向かった。
小さな引き戸を開けると、中には白地に青で牡丹が描かれた見事なつぼが入っていた。
部屋に入れ替わりで飾っているものだろうか。
そのつぼを取り出して地面に置くと、ハイリアは収納スペースの中にある天井部分に触り、板の切れ目を見つけて拳で押し叩いた。
カコンと板が外れた音を聞きながら、その板を横へ少しずらし、そこにできた隙間に丸めた衣服を入れ込んだ。
元通りに板を戻すと、つぼを中に入れて引き戸を閉じる。
『あなたは、いったいどこでそういう知識を……? 』
呆れたようなアイムの声が聞こえて、ハイリアはうっすらと笑みを浮かべた。
「色々ね……、昔からどこかに隠れることが多かったし、物探しもよくやったから……。ごめん、アイム……。私、多分もう、マゴイが……」
『申し訳ありません……、先程、かなりお借りしましたので……』
「何言ってるの……。助けてもらって、何も言えないわ……」
『必ず、部屋にお戻り下さいね』
念を押すように言って、金色の瞳が銀の腕輪から消えた。