第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
闇にうごめく無数の黒いルフは、不気味でとても恐ろしい。
作られた闇の球体からは、時々黒いルフが溢れ出て、周囲を飛び交い闇の中へと戻っていた。
集められた黒ルフたちの鳴き声は、今も広間に響いている。
その声に混じって、何か聞こえるのは気のせいだろうか。
高い声で鳴くルフの声とは違う、頭に響くような低い音がする。
── 何、この音……?
決して気持ちが良いものではないその音は、何かに似ていた。
ゴーゴーと耳鳴りのようにも感じる音は、風がうなりを上げる音に似ていると気づく。
しかし、何かが違う。これは風の音なんかじゃない。
響く音に耳を澄ましているうちに、だんだんとそれが何の音だかわかってきて、ハイリアは顔を引きつらせて耳を塞いだ。
これは人の声だ。幾人もの人達が呻き声を上げ、叫び声を上げる、おぞましくて気持ちの悪い声。
声が重なりあって、風がうなるように聞こえるだけだ。
── なんで、ルフからこんな声が!? あのルフはいったい……!?
耳を塞いでも直接、頭に響いてくるその音に、ハイリアは震えあがった。
胸の奥でズキズキと棘のようなものが疼く。
疼きはだんだんと強くなり、黒いわだかまりを刺激する。
── いや……、なんか……、苦しい!
かき乱されるような痛みを感じて、ハイリアは胸を押さえ込んだ。
すぐに指先に触れた硬い感触に、持っていたものを思い出す。
服に忍ばせていた黒ルフの入った小瓶だ。
触れた小瓶を取り出してみると、中で羽ばたく黒いルフに異変が起きていた。ルフの体から滲むように黒い闇の光が漏れ出している。
広間に浮かぶ闇と同じ声が、このルフの闇からも聞こえた。
黒いルフに宿る闇から響く声は、脳裏にちらちらと過去の嫌な記憶を思い出させ、怒りや孤独や絶望感を胸の中に渦巻かせて、胸を締め付ける。
胸の奥から湧き上がる黒いものは、熱いほどに痛くて苦しい。