第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「黒き御子に、我らが父の暗黒を」
再び広間に響いた従者たちの声と共に、集められていた黒いルフたちが八芒星めがけて落ちていった。
騒がしいほどのルフの声が広間に響きわたり、無数の黒い闇がジュダルに降り注ぐ。
黒いルフたちは、ジュダルの腕を呑み込み、足を呑み込み、彼に食らいつくように巻き付いていった。
渦巻く黒いルフたちに身体をむさぼられながら、闇の中に呑み込まれていく彼の姿は異様で、ルフに襲われているみたいだった。
目を疑いたくなる光景の中で、ジュダルは黒ルフの闇に消えていった。
八芒星の中央に、彼を取り込んだうごめく闇の塊が出来上がっていく。
闇は徐々に丸い形を成していき、巨大な漆黒の球体が広間に浮かび上がった。
── なに、これ……。
大勢の従者たちが取り囲む中央に作られた不気味な闇の球体に、ハイリアは青ざめて固まった。
『神事』は『マギ』が執り行うものだったはずだ。
これでは、まるでジュダルをあの闇に落とし込むために、従者たちが行う儀式じゃないか。
── こんなものが『神事』なの?
闇の中に取り込まれてしまった、ジュダルを見つめる従者たちの視線はとても冷ややかだ。
異様な光景だというのに、皆それが当たり前だとでもいうように中央の闇の球体を見つめている。
檀上にいる皇后に目を向けると、玉艶は綺麗な口元をつり上げて笑っていた。
ジュダルに向けられている、いくつもの冷たい眼差しに凍り付き、頭が混乱した。
── こんなことを、ジュダルは毎日続けて……?
広間を囲む『銀行屋』たちは、彼の付き人で、育ての親でもあったはずだ。
それなのに、こんな闇の中に閉じ込めるようなことを、毎日彼にやらせているというのだろうか。
── いったい、何のためにこんなこと……。