第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
── 黒いルフに宿るこの声は……、この闇は……、こんなに痛くて苦しいものなの?
気づけば、頬を涙が伝っていた。
握る小瓶の中で光る闇の光は、とても冷たい感触がする。
あの闇の中に取り込まれているジュダルは、この声を聞いているのだろうか。
── こんな感情を、思いを、抱えながら?
円状の広間に浮かぶ闇の球体は、先程よりも大きさが増しているように思えた。
広間を取り囲む従者たちの杖先から、尚も黒いルフが湧き上がっていることに気づき、恐ろしくなる。
さらに、黒の球体を大きくしようと黒ルフたちが向かい飛ぶ。
響く声は大きくなり、ハイリアの脳裏にはっきりと、記憶をよみがえらせていった。
燃え盛る炎の中には、多量の死骸。恐ろしい女が笑い、目を見開いた動かない村人がこちらに手を伸ばしていて……。
── いやだ、やめて……!
民家が押し倒れた町には、地面には映えるような真っ赤な血だまりができ、大切な人が倒れている。もう動かないその人の側で響く爆発音と、光の閃光が辺りを包んで……、黒い怪物が……。
── もうやだ、こんなの見たくない……!
叫び出したくなるような苦しさに、涙がボロボロとこぼれ落ちる。
胸を押さえてうずくまりそうになった時、側でピシリッと音がした。
音が響いてきたのは、右手に握りしめていた黒ルフの小瓶だった。見ると、ガラス瓶に亀裂が入っていて青ざめる。
黒いルフに宿る闇が膨張し始めていた。ガラスに入った亀裂がピシピシと音をたてて深まっていく。
── やめて……、あなたに逃げられたら、私……、帰れなくなる!
胸の痛みを堪えながら、ハイリアは急いで小瓶を握りしめる手にマゴイを宿した。
── お願い、おさまって!
勢いよく放たれた白い光が、黒いルフにぎゅるぎゅると巻き付き、膨張し始めた黒い闇を押さえ込んでいく。
しかし、闇の勢いはおさまらない。一度は小さくなった闇の光は、巻き付く白い光に抵抗を示して膨れ上がった。
圧される力を感じて放つマゴイを強めたとたん、ずきんっと鋭い胸の痛みが襲い、ハイリアは膝をついた。