第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
広間の中枢に現れたのは、ジュダルだった。
見間違えようもない神官の姿に確信する。ここが『神事』を行う場所なのだと。
── やっと、見つけたわ……。
黒く長い三つ編みを揺らしながら歩く姿は、なんだかとても面倒くさそうで少し呆れた。
それと同時に、複雑な気持ちも絡み合う。
漆黒のルフを携えて大きな八芒星の中へ一人立ったジュダルは、杖を取り出すわけでもなく、包帯の巻かれた腕を組み、まっすぐに何かを見据えていた。
彼の視線の先にいた、綺麗な着物をまとった女に気づき、ハイリアは表情がこわばるのを感じた。
艶やかな笑みを浮かべて、従者が囲む壇上からジュダルを見下ろしていたのは、皇后である玉艶だった。
やはり、あの人もこの組織に属しているようだ。
大勢の覆面の従者が集う中にいる、皇后と『マギ』の姿を見て、胸の奥にあるわだかまりが強まった。
国に潜む、漆黒のルフを宿すこの巨大な組織は、いったい何なのだろうか。
ハイリアが戸惑う中、『銀行屋』がそろって言葉を言いだした。
「八芒星の計画書のままに」
とたんに、覆面の男たちから無数の漆黒のルフが溢れ出した。
広間を覆いつくす程の勢いで彼らから立ち昇った黒いルフの声が、ビィービィーと幾重にも重なって響きわたる。
天井に集められていく黒いルフの群生に唖然としていた時、突然、近くで大きなルフの鳴き声がして、ハイリアはびくりと身体を震わせた。
鳴き声を上げたのは案内役をさせていた、扉にとまる黒いルフだった。
与えていたマゴイが切れたのか、黒いルフはハイリアが開けた扉の隙間へ入り込むと、勢いよく広間へ飛んでいく。
駆けるように宿る主の元へ向かった黒いルフが、八芒星の中心に立つジュダルの側で消えた。
ジュダルは何をするわけでもなく、天井に集まる漆黒のルフをただ見つめていた。
見上げる彼の視線の先にいる尋常じゃない数の黒いルフは、うごめく巨大な闇の塊のようで背筋がぞくりとする。