第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
途端に八芒星から光は消え、気づけば景色が一変していた。
足元に描かれている八芒星は、大きさも形も同じなのに、星の図面がある床は白から黒く陰った色へと変わっている。
戸惑いながら辺りを見渡せば、先程の真っ白な部屋とは打って変わって、薄暗い場所にいた。
八芒星の描かれている場所は、ちょうど部屋の隅にあたり、縦長にのびた広い通路が奥へ続く。
それなりに広さがある室内は、天井も高く、部屋というよりは、部屋同士をつなぐ大きな廊下のようだった。
窓がないことを考えると、どこかの地下なのかもしれない。
壁に並ぶランプの火が、古びた灰色の石壁をぼんやりと照らしていた。
ここが果たして煌の宮廷の中なのか、または全く違う場所なのかもわからないが、知らない場所にたどり着いたことだけは確かだった。
廊下をまっすぐ進んだ奥地には、一つ扉がある。真っ白な部屋にあった扉と似た、石造りの大きなものだ。
扉にたどり着くまでの通路の左右には、扉がないアーチ状の入り口も一つずつあり、ぽっかりと穴の空いた暗闇が奥へと続いていた。
『お戻りください! この先へ行ってはなりません! あなた様が思っている以上に危険なのです! 』
金属器に目を向けると、注がれるアイムの眼差しからは、抑えきれないほどの焦りが感じられた。
ここまで来ても、まだ止めようとしてくる金色の瞳に向かって、ハイリアは薄く微笑んだ。
「もう無理よ。少し黙ってて」
右手の金属器に宿るマゴイを逆流させるように強く意識して、ハイリアはアイムへ向かうマゴイを遮断した。
『なりません! どうか……やめ……く……! 』
ぷっつりとアイムの声が途絶え、銀の金属器に浮かんでいた金色の瞳が消え失せた。
ようやくいなくなったお節介なジンにため息をつくと、ハイリアはどこかへ飛んで行ってしまった案内役の黒いルフの姿を探した。
薄暗い部屋に同化してしまう黒いルフの姿はわかりづらかったが、ぼんやりと灯る明りが小さな黒い一点を揺れ動かしたおかげで、どうにか見つけ出すことができた。
黒いルフはまっすぐに、廊下の奥地にある大きな石造りの扉に向かって飛んでいた。
どこかへ曲がり飛ぶこともなく、まるで固い意志があるかのように黒いルフは扉にとまると、先程と同じようにその場で羽ばたきを繰り返した。