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【マギ*】 暁の月桂

第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕


扉と同じく、西方で見かける造りの大きな広間は、白い石壁で囲まれていて神々しい雰囲気を感じさせる。

祭り事を執り行うには最適な場所のようにも思えるその場所には、なぜか誰の姿もない。

「え……、誰もいない……? 」

予想もしていなかったことに戸惑いながら、ハイリアは静かすぎる広間の中に足を踏み入れた。

一人でいるには広すぎる部屋に、硬い床を歩く自分の足音だけが反響する。

広間の中は、すっきりとしていると言えば聞こえはいいが、白さに包まれている以外、何もないと言ってもいい場所だった。

部屋を囲む白い石壁には、細かな彫刻がなされていて、それが厳かで神秘的な雰囲気をかもしだしているのだが、どこかへ通じる扉もなければ、祭壇すら見当たらないのだ。

彫刻は床にもされているが、あるのは部屋の中央に彫り描かれた大きなサークルと、その中にある星の図面が一つだけだ。それ以外は何もない。

── どういうこと……?

昨日、確実に『銀行屋』が通り過ぎて行った場所のはずなのに、入り口以外の扉がどこにもないなんておかしな話だ。

── 黒いルフが示したのはこの扉だった。『神事』の場所は、この先で間違いがないはず……。

突然、バタンッという大きな物音が、静けさに包まれている広間に響きわたった。

ビクリと身体を震わせて振り返った先で、石造りの扉が閉じていた。

何かと思えば、扉が閉じた音だったらしい。広いせいでよく響く。

早くなった鼓動を落ち着かせ、ハイリアは案内役である黒いルフの姿を探した。

白い部屋の中を飛ぶ黒の一点は、中央に描かれた星の図面に向かって飛んでいた。

星の図面に近づくなり、弧を描くようにして下降した黒いルフは、描かれた図面にとまり、その上で静かに羽ばたきを繰り返した。

白い扉にとまった時と同じ行動をするルフに少し戸惑いながら、ハイリアは黒いルフがとまる大きな星の図面に駆け寄った。

── まさか、ここが入り口?

ルフが指し示すのだ。

他に何もないし、部屋で唯一おかしなものといえばこの図面くらいだ。それ以外考えられない。

黒ルフが示す先が星の図面なら、恐らくこの先がジュダルたちのいる場所なのだろう。
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