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【マギ*】 暁の月桂

第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕


忍び込んだ別棟の中も、人の気配はなく静まり返っていた。

こちらに向かってくるような足音も聞こえずホッとする。昨日と少し訪れる時間をずらしたことも功を奏したのかもしれない。

手に入れた彼らにそっくりな衣装を身にまとっているとはいえ、変装が絶対にばれない保障はないので、できれば『銀行屋』には会いたくはない。

得体のしれない彼らは謎が多いし、魔導士である彼らに何かの拍子でルフの色がばれる恐れだってある。

通路の最奥に見える白い石造りの扉の前にたどり着くと、側に飛び交う漆黒のルフが扉にとまり、羽根を休めるように羽ばたきを繰り返した。

この先がどうなっているかは知らないが、見つかった時に味方がいないことは確かだろう。

── 一人はいるかもしれないけれど……。

と考えてしまって、なんでジュダルに頼ろうとしたのだろうかと、自分に呆れて頬が赤らんだ。

── だめよ。ジュダルの弱点も見つけてやるんだから!

先程の悔しさを思い出して自分に言い聞かせると、ハイリアは白い扉と向き合った。

── 気を引き締めていかなくちゃ……。

黒いルフを持つことで開く扉なら、黒いルフの入った小瓶を身に着けることで、擬似的に黒ルフを身に宿す状態を作った今なら開くはずだ。

扉にとまり、羽根を羽ばたかせている漆黒のルフを横目に見ながら、ハイリアは大きく息を吸い、吐いた。

覚悟を決めて、大きな白い扉に手を伸ばす。

扉の柄に手をかけてそっと押してみると、昨日は重くてびくともしなかった扉が、軋むような音をたてて開いていった。

簡単に内側へと開いていく扉に驚きながら、真っ白な光を感じてハイリアは目を細めた。

現れた純白の広間に目を見張る。

眩い光のように思えたのは、空間をしめる色だったのだ。

隙間ができるなり、部屋の中へ飛んでいった黒いルフを目で追いながら、ハイリアは奥に広がる真っ白な空間を見つめた。
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