第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
自室の鏡台の前に座り込みながら、ハイリアは頬を赤らめて長い白髪をとかしていた。
どう髪の向きを持ってきても、首筋につけられた赤い痕が目立つ。
── ああ、もう!
仕方なくいつものように銀の髪留めで髪を一つにまとめ留めると、ハイリアは白のストールを衣装ケースの中から取り出して首に巻き付けた。
結局、ジュダルに弄ばれてしまった自分が情けなくて腹が立つ。
出し抜けるものならやってみろ、と言ったジュダルの言葉を思い出して、ハイリアは苛立ちながら鏡台の引き出しを開けた。
化粧瓶とは別に置いてある、二つの小瓶を手に取った。
中で羽ばたく漆黒のルフを見つめて思う。
── やってやろうじゃない……。ついでにあなたの弱点でも見つけてやるわよ!
ハイリアは棚の奥に隠していた『銀行屋』の衣装を服の上に着こむと、黒いルフの入った小瓶の一つを服の中に忍ばせて、もう一つの小瓶を開けた。
外に飛び出そうとした黒いルフを握りしめると、ビィービィーと鳴き声を上げる黒ルフを大人しくさせるために、マゴイを送りながら頭に思い描く命令を与える。
── 私の側を離れずに、あなたの主がいる場所まで案内して!
苛立っていたせいか、送るマゴイが強く乱れた。
ルフが痛そうに声を上げたのが聞こえて、力を抑えるように意識を集中させた。
慎重に力を練り直して、従えられるだけの充分なマゴイを供給すると手を放す。
上手く側を飛び交った黒いルフを見て、ほくそ笑んだ。
── 見てなさい、ジュダル! 私を見くびったこと後悔させてやるわ!
変な闘争心を宿しながら、ハイリアは黒ルフの正体を知るべく、『神事』の秘密をつかんでやろうと意気込んだ。
手に入れたクーフィーヤで顔を覆うと、廊下に誰の気配もないことを確認して部屋を出た。
向かう場所は決まっている。二度も行き来した道は、もう迷うこともない。
朝議の真っ最中である宮廷内は、実に静かだった。
長い廊下をひたすら歩けど官吏とすれ違うことはなく、掃除をしている下女たちを通路の奥に見かけたくらいだ。
順調に『神事』を執り行っているだろう別棟に、黒いルフを連れながら到着すると、ハイリアはその中に足を踏み入れた。