第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「おや、起きておられましたか」
「ったく、おまえもノックしねーのかよ……。どうして俺の部屋に入ってくる奴らは、遠慮もなしにずかずかと入って来れるんだ? 」
「これは失礼を……。返事がいつまでもなかったものですから、寝ておられるのかと思いまして……」
「……あ、そう。まーいいや……。すぐ行ってやるから、少し外で待ってろよ」
「少し、でよろしいので? ハイリア殿はご加減でも悪いのでは……? 」
「気にするな。どうってことねーよ」
「はあ……、では、外でお待ちしておりますぞ、神官殿」
はっきりとしない意識の中で、ジュダルと従者の会話が聞こえ、扉が閉まる音がした。
力が入らない身体を動かされて、柔らかな感触のする場所に埋もれて横たわる。
何度か熱い頬をつつかれて、ハイリアは目を開けた。
「起きてるかー、ハイリア? 油断するなって言わなかったかー? おまえは、ほんと用心が足りないな」
動けずにいる自分の頬をつつきながら、ジュダルが面白そうに見下ろしていた。
寝台に寝かされているようだった。悔しくなってじろりと睨み付ける。
「ひどい……、覚えてなさいよ……! 」
「そんなだらしねぇ恰好でよく言うぜ……、俺を出し抜けるもんならやってみろよ」
にやりと笑みを浮かべてジュダルは言うと、寝台から飛び降りた。
軽快な足取りで扉へと向かう彼の背中が見えて、扉を開けたところで長い三つ編みが大きく揺れ動く。
「じゃーな、俺は行ってくるから、おまえはくだらねー雑務でもこなしてろ。帰ってきたら、また遊んでやるよ」
こちらを振り返ったジュダルの楽しげな声が響き、黒い影が扉の奥に消えていった。