第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「……もうやだ。そういうことばっかり考えてるなら、朝起こしに来るのやめる……! 」
「俺が許すと思ってんのか? ふざけたこと言ってねーで、手が空いたならさっさと髪を結い直せ! ったく、すっかり時間が無くなっちまったじゃねーか……」
「…………」
支度の時間がなくなってきているのはその通りで、ハイリアはむくれてクシを手にすると、仕方なくジュダルの後ろに回って座り込んだ。
昨日、結んだまま寝てしまった彼の長い三つ編みは、ひどくほつれていた。
乱れ具合に余計なことを思い出しそうになり、恥ずかしくなりながらハイリアは彼の髪留めを紐解くと、指を通して絡みを直していった。
せっかく謝らせることができたのに、負けた気分だ。
結局、自分が振り回されている状況だから気に入らない。
淡々と髪をクシでとかし、三つ編みを結い直しながら、ハイリアは悔しくて黙っていた。
モヤモヤと複雑な思いも抜けない。
まるで気分がのれば、いつでもできるみたいなことを言うジュダルは、昨日もそんな気持ちだったのだろうか。
── それじゃあ、誰でもよかったみたいじゃない……。
熱い思いに流されていたとはいえ、そんな軽い気持ちで一緒にいたわけではないのに。
ジュダルの言葉がぐるぐると頭を回るうちに、だんだんと不安になってきた。
すぐ側で髪を結う姿を覗き見てくるジュダルをちらりと伺うと、何も気にしていないような表情が見えて、ハイリアはむっとした。
「なんだよ、まだ何かあんのかよ? 」
ジュダルの眉間にしわが寄り、ハイリアは目を逸らした。
「べつに何も……」
「黙ってねーで言えばいいだろ? いちいち、めんどくせぇーやつだな……」
苛立つジュダルの声を聞きながら、何となく落ち着かなくて、彼の黒髪を結び留めていた髪紐をくるくると指に巻きつけた。