第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
「おい、ハイリア……」
黙り込んでいたジュダルの声が聞こえて、ハイリアは顔を上げた。
声をかけてきたジュダルは、やけに険しい表情をしていた。
苛立ちを堪えているような表情にも見えて、まだ文句でも言ってくるつもりなのかと顔をしかめると、彼の口元がわずかに動いた。
「……ったな……」
むすっとした顔でボソボソと言われ、なんだかわからなかった。
「え、なに……? 聞こえない」
言ったとたん、ジュダルは顔を引きつらせて、今にも噛みついてきそうな勢いで眉間にしわを寄せたが、ハイリアが冷たい視線を送ると、すぐに何かを堪えるような表情へと戻った。
再び、黙り込んだジュダルは険しい顔をして、ほとんど睨み付けているに近い視線を、こちらに送ってくる。
妙な沈黙と、緊張感が部屋を包む中、こわばっていた彼の口元がやっと動いた。
「悪かったなっ! 」
投げるように言われた謝罪の言葉が聞こえ、一瞬、耳を疑った。
慣れない言葉を言ったせいか、ジュダルはそわそわと落ち着かない様子で、視線を逸らしていた。
「なんだ……、ちゃんと言えるんじゃない」
唖然としながらつぶやくと、ジュダルの顔がみるみる赤く染まっていった。
「うるせぇーよ! くっそ、なんで俺がこんなこと……! 」
謝ったことが相当恥ずかしかったのか、ジュダルは真っ赤な顔をして声を張り上げた。
その様子が可笑しくて、ハイリアはくすくすと笑う。
「笑うんじゃねーよ! 俺をこけにしやがって! あームカつくぜ! 」
「バカになんてしてないわよ。ジュダルが珍しく謝ってくれたから、嬉しかっただけよ」
「……っ! 変なこと言うんじゃねー! 」
きまりが悪そうに、ジュダルは赤らんだ顔でそっぽを向いた。
いつも誤魔化してちゃんと謝らないジュダルから、はっきりと謝罪の言葉が出てくるなんて、初めてのことじゃないだろうか。
── 言えるなら、はじめから言ってくれればいいのに。ほんと、素直じゃないんだから……。
胸が温かくなるのを感じながら、ハイリアは気恥ずかしそうにしているジュダルの手を取った。