第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
一向に謝る気配がないから腹が立つ。どうして一言も出てこないのだろうか。
じろりとジュダルを睨み付けると、彼の表情が引きつった。
隙を与えずに揺らぐ瞳を強く見据える。
「こういう時は、どうすればいいかわかるでしょう? 」
「なっ……!? 」
「わ、か、る、で、しょ? 」
見開かれた赤い瞳に、強く、強く言い聞かせる。
「お、おまえ……!? ふざけんなっ! なんで俺が……! 」
「じゃあ、知らない。勝手にすれば! 」
冷たく言い放つと、ジュダルは青ざめた表情を固めたまま、急に黙り込んでしまった。
── 少しは、何が悪かったか考えればいいんだわ!
ハイリアは視線を手元へと戻し、包帯を巻き進めた。
爪痕のようにも見えた枝分かれした赤い傷は、もうほとんど白い帯で覆ってしまった。
腕の付け根近くまで、真っ白な包帯で覆われたジュダルの腕をみていると、嫌でも怪我の範囲がわかり、少し胸が痛むのを感じた。
怒りながらだったとはいえ、ここまで怪我をさせるつもりはなかった。
けれど、上手くコントロールができなくて、ミミズ腫れくらいですまそうと思った攻撃は、神経を麻痺させ、傷を刻み込むほどになっていた。
── やっぱり……、身体がおかしい……。
朝の稽古時といい、どうしたのだろうか。
身体の感覚が違うというか、乱れるというか、思い通りに動かなくなる時がある。
── 風邪でもひいたのかな……?
過去にもひどい熱が出た時にマゴイが乱れたことはあった。体調を崩す前の予兆なのだろうか。
── 今は、体調なんて壊していられないのに……。
明日の軍事訓練を思い出して、ため息をつきながら、ハイリアは巻き終えた包帯の結び目を作った。