第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
静けさを取り戻した部屋の中で、ハイリアは膨れっ面でジュダルの腕に包帯を巻いていた。
寝台にあぐらをかいて座り、片腕を差し出しているジュダルの手には、指先から腕まで稲妻のように枝分かれした傷痕が刻まれて、血が滲んでいる。
もう一方の腕も同等だ。
先程、ハイリアの攻撃をまともに受けた彼の両手は、マゴイが勢いよく走り抜けたことで神経を一時的に麻痺させたらしく、腕から指先までの動きがとても鈍い。
杖を上手く持てない彼の代わりに手当てをすることになったのだが、こうなった経緯について、ジュダルは一向に謝ってこないので、ハイリアは腹を立てていた。
「おい、いつまでそうしてるつもりだ? 」
手当てをし始めてから一言も言葉を発していないせいか、ジュダルは不機嫌極まりない。
全く反省の色がみられないジュダルにイライラしながら、ハイリアは何も言わずに巻き終えた包帯の結び目を作った。
無言でもう一方の傷ついた彼の腕を手に取って、ジュダルに視線を合わせることなく包帯を巻き始めると、彼の舌打ちが聞こえてきた。
「また無視かよ!? おまえのせいでこうなったんだろ! 」
苛立ち声を張り上げるジュダルにムカついた。
元はといえばジュダルがいけないのに、全く謝ることが頭にないようだから許せない。
こんなに、ジュダルが欲情まみれだったなんて思わなかった。
身体に触れることを一度許したとたん、なりふり構わず迫ってくるなんて呆れてしまう。
わきまえてやるだの、なんだの言っていたのは嘘だったのではないだろうか。
マゴイの威力が強くなりすぎて、思っていたより怪我をさせてしまったことは悪かったけれど、嫌だと言っているのに無理矢理迫ってきたのはジュダルの方だ。
── なんで私ばっかり悪いことになるのよ!
沸々と湧き上がっていく怒りを感じながら、ハイリアは手元の包帯を巻き進めた。白い布を折り、指の間をくぐらせる。
「ったく、さんざん煽ったあげく止めさせやがって……! あれで手ぇーださねぇー男なんているわけが……」
── 煽ってなんかないっ!
腹立たしさを感じて、ハイリアはぎりぎりと包帯を締め上げた。