第23章 緋色の夢 〔Ⅷ〕
鈍く光る鋭利な刃を見つめ、ハイリアは冷淡な笑みを浮かべていた。
その切っ先に力を込めようとして、腕を強く誰かに掴まれた。
「そこまでです! ハイリア殿!! 」
駆けこんできた青舜が張り上げた声に、はっとした。
気づけば、呂斎の喉元に血が滲んでいた。
慌てて剣を喉から離すと、青舜に勢いよく腕を引かれて、呂斎の側から引き離された。
「何をやっているんですか!? 」
「す、すみません……」
── 私、今……何しようとした……?
自分でもしでかしたことに恐くなりながら、手にしていた稽古用の双剣の片割れを鞘に収めた。
「ふん、礼儀がなっていないですな! いくら総督閣下のご指示とはいえ、このような振る舞いをする者を我らの部隊に入れて大丈夫なのですか、青舜殿! 確か、この者の教育係はあなただったはずでは? 」
身体を起こした呂斎が、喉元を押さえてこちらを睨み付けていた。
呂斎の言葉に、青舜が膝を折って礼をする。
「申し訳ありません、呂斎殿。しっかり言い聞かせますのでお許し下さい」
自分のために謝る青舜を見て、ハイリアも慌てて膝を折った。
「も、申し訳ありませんでした、呂斎殿……」
「頼みますぞ、たかが稽古で同軍の者に向かって殺気を出す武人など、危なくて一緒にいれませンからなあ! 」
声を荒立てて呂斎が去っていくと、青舜は立ち上がってハイリアを見据えた。
見たことがないほどに険しい顔をしている青舜が恐ろしくて、ハイリアは膝を折ったまま頭を下げた。礼のために組んだ手が震えていた。
「……申し訳ありませんでした、青舜殿」
「顔を上げてください、ハイリア殿……。何を言われたのか知りませんが、逆上してどうするのですか? あなたらしくもない……」
── わからない……、なんで切ろうとしたのだろう……。