第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
突き当りの廊下を道なりに進み、奥で交差している通路を勢いよく左に曲がりこんだ瞬間、突然、目の前に現れた白い影に驚き、ジュダルは足を止めた。
予想もしていなかった白い姿に、顔が引きつるのを感じた。
目を見開いて固まっているハイリアは、なぜかいつもの服ではない女らしい紫の衣装に身を包んでいた。
その目が薄く充血し、少し腫れていることに気がついて、居心地が悪いような面倒くさい気分になる。
── なんで、おまえがここにいるんだよ!?
紅玉のやつが連れ込んだのだろうか。余計なことをしてくれたものだ。
ジュダルは顔をしかめてハイリアから視線を逸らすと、急いで背を向けた。
胸に湧き上がった煩わしい感情をかき消すように、反対側の通路へと歩き出したとたん、背中の服が引きつれた。
「待ってよ……! 」
服を握りしめている手が震えていることに気づいて、無視しようと思っていたのに、足が止まってしまった。
「なんだよ!? 」
苛立ちながら振り返り見たハイリアは、不安げに瞳を揺らめかせていた。
赤みをおびたブドウ色の瞳に惹きつけられて、目が離せなくなる。
「言い過ぎて、悪かったわ! もう、怒ってないから……、あのことも……、もう、いいから……! 」
そう言って、瞳を潤ませたハイリアの頬は、みるみる赤く染まっていった。
困ったように視線を逸らしたハイリアの赤く色づいた頬と、潤んだ瞳の艶っぽさに、抱き寄せたい衝動に駆られておかしくなる。
距離を置こうと思ったことも、滅茶苦茶に壊してやろうかと考えたことも、気分が揺らいで削がれていく感じがした。
── ったく! やりずれぇーな……!
胸に起こるもやもやとした妙な感情に腹立たしさを覚えながら、ジュダルは泣き出しそうなハイリアの頭を引き寄せて胸に抱きとめた。