第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
温かい感触に気分が和らいでしまう自分が馬鹿だと思った。
「泣くんじゃねーぞ! 泣いたらもう知らねーからな! 」
言ったとたんに、ハイリアからポロポロと涙がこぼれ落ちたのが見えて、ジュダルは顔を引きつらせた。
「ごめん……、ジュダル……、ごめんね……」
かすれたようなハイリアの声が聞こえて、煩わしい気持ちになる。
「泣くなって言ってんだろ! 言ってる側から泣きやがって……、バカなのか、おまえは?! 」
「ごめん……、でも……」
「ったく、めんどくせぇーな……! さっさと泣き止め、ハイリア! 」
泣きはじめたハイリアの身体を抱き寄せて、ジュダルはため息をついた。
どう収めていいかわからず、ハイリアの頭を撫でる。
── やりづれぇーよ、ほんとに……。
息苦しいような胸の疼きを感じるのに、身を預けてくるハイリアにどこかで安堵している自分に呆れた。
これからハイリアの泣き顔ばかり見る羽目になるかもしれないというのに、こいつの側を離れることができないなんて滑稽だ。
このワケのわからない感情とも、付き合っていくしかないらしい。
胸の痛みを感じて苛立ちを覚えながら、ジュダルはうっすらと笑みを浮かべた。
── めんどくせぇーな、おまえは……。仕方ねーからゆっくり黒く染め上げてやるよ。
期日いっぱい使って、自分から目が逸らせなくなるように染め上げてやろう。
決して離れることがないように。
黒く染まろうと、心地よさが消えようと、こいつの視線の先が自分の姿でなければ許せない。
親父どもの被験体だろうとかまうものか。
── 何があろうと、おまえの側だけは誰にも譲らねーからな。