第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「そう言うなよ。茶ぐらい出してくれてもいいんじゃねーの? 」
「出す茶なんてここにはありません。帰ってください」
「つれねーなぁ……、こんな広い御殿に今はおまえ一人だろ? 姉さんも戦争の準備に忙しいしよぉ。寂しくねーのか? 」
「神官殿こそ、いつもの側近はどうしたのですか? 」
「たまには俺だって一人でいたいんだよ。なあ、白龍、おまえは力が欲しくねーのか? 迷宮攻略に行ってよぉ、パーッと力を手に入れちまえば、おまえだって姉さんの側にずっといられるんだぜー? 」
「その話は、以前も断ったはずです。何度言われても返事は変わりません」
「そうかよ、俺は今の皇帝よりもずっとおまえの方が……」
「いい加減にしてください! 帰ってください! 」
睨み付けてきた鋭い視線にぞくりとした。
── 見込みはあるんだけどな……。
まだ足りない。おまえのよどみは、もっと育ってからの方が面白い。
ジュダルはにっこりと笑みを浮かべると、椅子から飛び降りた。
「わかったよ、邪魔したなっ! 気分が変わったらいつでも言えよ? 」
白龍の肩を軽く叩いて、ジュダルは部屋を出ると、雨音が響くひと気のない廊下を歩きはじめた。
つまらない時間を次はどうやってつぶそうかと考えながら、長ったらしい廊下を突き進んでいると、ふと雨が降り始めた時に五月蠅く話しかけてきた紅玉のことを思い出した。
そういえば、まだ将軍ではないあいつは手が空いているはずだ。
── 仕方ねぇ、ババアでいっか!
もっと早く気づけばよかったと思いながら、ジュダルは紅玉の部屋の方へと足を向けた。
ようやく溜まった苛立ちが解消できそうだ。
何を話しても本気で信じる紅玉をまた騙してやろう。メガネが怒りだすようなことを教えてやっても面白いかもしれない。
白龍のところにいるよりはずっと退屈がしのげそうで、自然と笑みがこぼれた。