第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「どうしよう……、私……、これからジュダルと、どうやって顔を合わせていけばいいの……? 」
複雑な感情が渦巻いて、気づけばまた涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「なんで泣くのよぉ……。泣くことないじゃない、お互いやっと気持ちが通じ合えたわけでしょう? 」
「でも……、だって私は……! 」
黒いルフが脳裏をよぎり、ハイリアの胸を締め付けた。
── 私はまだ、彼に嘘をつかなければいけないのに……!
「ハイリアちゃん、しっかりしなさいよぉ。さっき、ハイリアちゃんはジュダルちゃんの様子が変だって言ったわよねぇ? 寂しそうだったって……。
そんなにはっきりと、ジュダルちゃんが弱みを見せるのなんて、きっとこの宮廷でハイリアちゃんの側だけよぉ? 」
涙を流し、動揺しているハイリアに向かって、紅玉はにっこりと微笑んだ。
「ハイリアちゃんよりも宮廷に長く住んでいる私だって、そんなジュダルちゃん、見たことがないんだもの……。大切な人だから弱いところも見せられるのだと思うわ。
ジュダルちゃんが落ち込んでいる時に、何かできるのはハイリアちゃんだけなのよぉ? 支えてあげなくてどうするの? 」
柔らかな紅玉の笑顔が、胸をさらに締め付けた。疼くような痛みは消えない。
── 支えられるだろうか。ジュダルの気持ちを知ってしまったのに……、自分の気持ちに気づいてしまったのに……。私は、彼をだましたまま、側にいることができるの……?
あの黒いルフの秘密を探ることを、止めればいいのだろうか。
けれど、考えてすぐに胸の中で渦巻く真っ黒な感情は、ジュダルを思う気持ちとは別の痛みをまとって胸を締め付けてきた。
抜け出せないほどに暗い沼の中にはまってしまった足は、もう取り出すことができなくて、もがけばもがくほどに、深い暗がりへ落ちていってしまう。
胸の奥で複雑に絡み合う感情に戸惑う中、ハイリアの手を紅玉が握りしめた。
「大丈夫よぉ、いつも通りハイリアちゃんが、ジュダルちゃんの側にいることが一番の薬になるはずよぉ? 」
柔らかな紅玉の手の温もりに、胸の中がじんわりと温かくなるのに、ズキズキと痛む胸の奥の疼きは離れてくれなかった。