第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「大丈夫よぉ! ジュダルちゃんなら『銀行屋』に連れられてどこかへ行ったわ! 外にはもういないわよぉ! 」
紅玉はそう言って、慌てて付け足した。
「ジュダルちゃんがあんなだったから、ハイリアちゃんに何かあったんじゃないかと思って、探したのよぉ。そしたら、やっぱり雨の中にいるんだもの……」
「そう、だったの……」
ハイリアは、やけに胸が痛むのを感じながら、再び椅子に腰かけた。
「そんなに険しい顔しちゃって……、喧嘩でもしたのぉ? 」
心配そうな表情を浮かべて、紅玉が穏やかな口調で言った。
「喧嘩……、なのかな……? よくわかんなくなっちゃって……、私もなんかおかしくて……」
「喧嘩なんてそんなものだわぁ、気にしすぎてもだめよぉ」
「ありがとう、紅玉ちゃん……。でも、ほんとにおかしいの……! 私だって……、あんなに怒鳴るつもりは、なかったのに……」
思いつめたような顔をしていたジュダルを思い出して、ハイリアは膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
「ジュダルの様子がいつもと違ったの……。なんか寂しそうで……。だから、悩みを聞いてあげたかったのに……。それなのに……、ジュダルがあんまり隠して教えてくれないから、腹が立って……! 」
気づいたらあんなに怒鳴っていた。
「私……、変だった……。ジュダルが打ち明けてくれない気持ちをあの従者たちは知っているのかと思ったら、私、許せなくて……、怒りが抑えられなかったの……! 急に一人にされたみたいで寂しくて、苦しくて……! 」
ジュダルの気持ちを確かめたかっただけなのに、いつの間にか違う感情が渦巻いて、自分でも制御できないくらいに、おかしくなっていた。
「なんであんなに怒鳴っちゃったんだろう……。私、どうかしてた……」
「……ハイリアちゃん、『銀行屋』に嫉妬しちゃったのねぇ」
「嫉妬……? 」
「そうよぉ。だってハイリアちゃん、『銀行屋』がハイリアちゃんの知らないジュダルちゃんを、知っていることが許せなかったんでしょう? そういうのを、嫉妬してるって言うのよぉ」
紅玉はにっこりと微笑んだ。