第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
紅玉に連れられて部屋にたどり着いたハイリアは、濡れてしまった服を着替えさせられ、今は煌でよく着られている軽装のドレスを身に着けて、椅子に座っていた。
深いスリットが入った紫のワンピースのドレスは、東の民族衣装でもある。
一度、紅玉との試合に負けて着たことがある服は、着慣れないけれど身体が冷えていたせいか温かく感じた。
ようやく泣き止むことができたハイリアは、机に置かれている温かなお茶の入った湯呑を握しめて見つめながら、まだ少し整わない息を落ちつけていた。
小さな丸い木目の机の中央には、花の形をした可愛らしいお菓子が置かれている。その先に対面するように座っている紅玉は何も言わない。
お茶の支度をすませると、部屋から人払いまでしてくれた彼女は、ずっと自分が泣き止むまで黙って待っていてくれた。
「少しは落ち着いた、ハイリアちゃん? 」
視線が合うなり、にっこりと微笑んだ紅玉に気恥ずかしさを覚えながら、ハイリアは静かに頷いた。
自分のせいで彼女も服が濡れてしまって、着替える羽目になったというのに、紅玉はそのことを怒りもしなかった。
「何があったのぉ? 急に泣き出しちゃうなんて、ハイリアちゃんらしくないじゃない? 」
「……うん。でも……」
どう話していいか、よくわからない。
胸に渦巻く複雑な感情は、入り混じって滅茶苦茶になっている。
締め付けるような胸の疼きを感じて、ハイリアは温かな湯呑を強く握りながらため息をついた。
「ジュダルちゃんと何かあった? 」
驚いて見上げた紅玉は、くすりと笑っていた。
「やっぱりねぇ……、そうだと思ったわぁ。二人して同じ顔しているんだもの」
「ジュダルが……? 」
「そうよぉ、ハイリアちゃんと会う前に、屋根の上でぼーっとしているのを見かけたわぁ。雨が降ってきたから中に入ればって声をかけても、怒って聞いてくれなかったけれど……」
雨の中、一人座り込んでいるジュダルが思い浮かんで、ハイリアは慌てて立ち上がった。