第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
ハイリアから湧き上がっていた陰るルフの姿は、いつの間にか消えていた。
深まっていた黒は収まり、こぼれ落ちていた涙も止まっている。
「おまえが必要ねぇわけねーだろうが! おまえが信用できねーとか、そういう話じゃねーんだよ! 」
苛立ちながら言い放ち、ジュダルは瞳を揺らめかせているハイリアを強く抱きしめた。
「わかれよ、ハイリア! 言えねぇことがあっても、おまえを嫌ってるわけじゃねーんだ! おまえは俺にとって……! 」
言おうとして、胸に起こっているこの感情がなんなのかわからなくて、ジュダルは口ごもった。
言葉にできないことに腹が立ち、答えられないことが気恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じる。
「たのむから、おまえは俺の側にいろよ! 」
苦しさに似た煩わしい感情が、胸の奥を締め付けた。
こんな思いを抱えることになるなら、遊びなどせずにさっさと堕転させてしまえば良かった。
あと数日で壊さなければいけないというのに、こいつをうまく手放せるだろうか。
決められた数日間で、牙を向けることになることも、ハイリアの身に宿るルフが変わることも、もうどうにもならない問題だというのに、こいつの側は温かすぎる。
どうでもいいような奴だったら、どんなに楽だったろうか。
落ち着く温かい心地よさを確かめるように、ジュダルは強く目を閉じた。
── なんで、おまえなんだよ……!
残る日数を思い出し、腹立たしさを覚えながら、ジュダルはハイリアの身体を引き離した。
このままこいつの側にいたら、何もできなくなる気がした。
驚き固まっているハイリアから目を逸らして立ち上がると、ジュダルは黙って背を向けて歩き出した。