第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
こいつの堕転が迫っただけで、むしゃくしゃする気分を落ち着けることができずにいる自分自身に呆れた。
「やっぱり何かあったんじゃない……。イライラしてどうしたのよ? 」
「たいしたことじゃねーよ……」
「じゃあ、言えばいいじゃない」
「……おまえには関係ねーことだ」
「関係ないって……」
「いいんだよ、おまえは知らなくて! 」
「…………また、そうやって……、私に隠すの? 」
肩の辺りの服が、急に引きつれるように引っ張られた。
驚いて視線を前に戻すと、服を握りしめたハイリアが、強い眼差しを向けていた。
鋭い眼光を浮かべるブドウ色の瞳は、じんわりと潤み始めていたからどきりとする。
「どうして、いつも隠すの!? そんなに私が信用できない? 頼りないわけ? 」
みるみる溜まっていく透明な水だまりに焦りを感じた。
「おい……、ハイリア……、落ちつけって! 」
「何が落ちつけよ! ジュダルはそうやっていつも私に何か隠してるわ! 誤魔化してることぐらい、わかってるんだから! からかうばっかりで、肝心なことはいつも教えてくれないもの! 」
ハイリアの勢いは収まらない。潤む眼差しに溜まった水滴は、今にも零れ落ちてきそうだった。
「なんで私には教えてくれないの? 私、あなたの側近なんでしょう? 」
「おまえに言えないことだってあるんだよ! 」
「……従者の人たちには話せるのに? 」
面倒くさいことを言い始めたハイリアに、苛立ちを覚えた。
「全部、包み隠さず話すのがいいと思ってんのか?! バカなこと言ってるんじゃねーよ! 」
「わかってるわよ、そんなこと! 」
ハイリアは声を荒立てた。