第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
気持ちが良い温もりと安らぐ香りを抱き込みながら、ジュダルは組織に言われた期日のことを思い出して、ため息をついた。
── 十日か……、すっげぇー、短けぇーじゃねーか……。
わかっていたはずだった。
迷宮から拾い出した時点で、金属器を手に入れたハイリアを堕転させることは決まっていたのだ。
その役目を任されたがために、宮廷入りしたハイリアが、自分のすぐ側に置かれたのだということも理解はしていた。
はじめは少し遊んでみて、飽きたらすぐに堕転させるつもりだった。
けれども、いつまでもたっても飽きることがなかったのだ。
いつの間にか、ハイリアの側にいることが心地良くなっていた。
そのうち、別の誰かがこいつの側にいると、苛立ちを覚えるようになった。
柔らかな感触も、この温もりも、誰にも触れさせたくはないと思う程に。
堕転させずにこのまま側に置いていたいということが、馬鹿げた考えだということもわかっている。
それでも、この居心地の良さを手放したくはなかった。
── おまえのせいだぜ、ハイリア。何なんだよ、この妙な感情は……?
「どうしたの、ジュダル? 黙り込んじゃって……」
声が聞こえて視線を向けると、いつの間にかハイリアが不安そうな表情を浮かべて、こちらを見つめていた。
「なんでもねーよ……」
「本当に? 何かあったんじゃ……」
赤みをおびたブドウ色の瞳を揺らめかせて、顔を覗き込んできたから戸惑った。
「何もねーよ。昨日、あんま寝てねーせいで、眠いんだよ……」
「でも、今……、すごく寂しそうな顔して……」
そんな表情をしていた覚えはない。ワケのわからない感情が渦巻いて、かっとなった。
「うるせぇーな! なんでもねーんだよ!! 」
つい声を張り上げて、しまったと思った。
これじゃあ、苛立っていることが丸わかりだ。案の定、ハイリアは目を見開き、困惑している。
誤魔化してやり過ごすつもりが隠せなくなり、ジュダルはまともに見られなくなったハイリアから顔を背けた。