第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「また、そんなもん読み始めたのか? 」
「……ちょっとね。もう少し頑張ってみようと思って」
「よくそんな面倒くせぇ本で、そこまで集中できるな」
「……うーん。でも、頭には入ってないかもしれないけどね……」
膝の上に置いた本をじっと見つめて、ハイリアはため息をついていた。
こいつの身に宿るルフの陰りは、昨日と変わっていない。今日の空のように濁っている。
陰るルフの中を探り見てみると、その一つの羽根に、凹凸のついた痕があることに気がついた。
火傷の痕のようなそれは、よくみると小さな八芒星だった。星の中央にうっすらと『23』の文字が浮かび上がっている。
苛立ちを覚えて顔をしかめると、ハイリアと目が合った。
「何……? なんか変なものでもついてる? 」
「ああ、いや……、なんでもねーよ……」
言いながら、座り込んでいるハイリアの肩を引き寄せて、身体にもたれかかった。
温かくて、柔らかい身体を抱きしめると、乱れていた気分が少し和らいでいく感じがした。
「ちょ、ちょっと! そういうの困るってば! 」
いつものように、逃れようともがきだしたハイリアを、腕で抱え込み押さえた。
「うるせぇーな、大人しくしろよ! おまえ、昨日は先に眠りやがって……。あんまり騒ぐなら、もう一回言うこと聞いてもらうぜ? 一晩一緒に過ごすどころか、部屋にまで運ばせたのはどこのどいつだよ……? 」
「それは……、そうだけど……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、ハイリアは抵抗をやめた。こいつも昨夜のことは、悪かったと思ってはいるようだ。
ハイリアの身体を向き合うように膝の上に乗せて抱きなおすと、困ったように瞳を揺らめかせて目を逸らし、頬を赤く染め上げたから面白かった。
ちょうどいい具合に抱き寄せたハイリアの身体からは、花のような匂いがした。
天井一面に咲いている淡紅色の花よりも、ずっと甘い香りだ。