第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
誰もいない広間を見たとたん、儀式が始める前のことが思い起こされて、忘れていた腹立たしさがよみがえってきた。
「終わったなら、さっさと帰らせてもらうからな! 」
イライラとしながらジュダルは足早に歩き始めると、慌てて駆けてくる足音がした。
「神官殿、お待ちください! 玉艶様より言伝が! 」
「っんだよ、まだ何かあんのか!? 」
あれだけ散々むかつくことを言っておいて、まだ自分に何かあるらしい。
仕方なく立ち止まり振り返ると、顔も見えない男が側に寄ってきた。
「王の件、十日以内には進展させるようにと、おっしゃっておりました」
短すぎる期間に、思わず舌打ちした。
「せかしやがって! 絶対に手を出してくるんじゃねーって、伝えとけ! 」
苛立ちながら男に言い放ち、ジュダルは背を向けて歩き出した。
「お願いいたしますぞ、神官殿! 」
後ろから響いてきた男の声に、余計に腹が立ってきた。
── 十日だと!? ふざけんなっ!
薄暗い廊下を駆け抜け、さらにその先を通り抜けた場所にある白い扉を、殴るように叩き開けると、外へ飛び出した。
収まらない怒りを感じながら、ジュダルは足を踏み鳴らし回廊を駆け抜けると、忙しそうに歩き回っている、邪魔な官吏たちを避けて廊下を突き進んだ。
ある程度進んだ先で、どこにいるかわからない側近を探すために、一気に目に力を込めて宮廷内の魔力を探知し始める。
宮廷にいくつかある、常人ばなれしたマゴイの光はすぐに見つかった。
その中で、金属器をもつ奴らを探し出し、特徴ある白いマゴイの光を見つけて、ジュダルは光のあった方へと足を向けた。
どこにいるのかと思えば、庭園だ。
雨が降り出しそうな分厚い雲が空を覆っているというのに、外であいつは何をやっているのだろうか。