第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
視線が動き、どこか悲しげな表情を浮かべている老婆が目に映ると、赤子は小さな手を老婆に向かって無意味に伸ばした。
『安心せい。おまえさんを村の神木に置いて行った親御の心は知らんが、おばばがちゃんと守ってやるわい』
赤子が伸ばした小さな白い手を、大きな老婆の手が包み込むと、なぜか温かい手のぬくもりが伝わってきたから、ジュダルは戸惑った。
── なんだよ、この夢……。
こんな夢は見たことがない。こんな情景は知らない。
胸の奥が疼くような感覚がする中、急に目の前の景色がぼやけて遠のいて行った。
過ぎ去っていく景色と共に、声が響いてくる。
── 誰だ、この声は……?
聞き覚えのある声に引き寄せられるように、ジュダルがうっすらと目を開けると、覆面の男の姿が見えて、気分が一気に下がっていった。
「神官殿、お目覚めですかな? 」
まだ、夢の中の婆さんを見ている方がマシだったと思いながら、ジュダルは八芒星の描かれた冷たい床の上から、ゆっくりと身体を起こした。
── 何なんだよ? さっきの夢は……?
儀式の最中に夢を見るなんて、今までにないことだ。
起こした体には、いつも『神事』のあとに感じる気持ち悪さがなかった。
── なんだ? 体の感覚がいつもと違う……?
なぜか軽くなっている体に戸惑いながら、ジュダルは立ち上がった。
手足の動きを確かめていると、側にいる覆面の男が不可思議なものでも見るような視線を送っていた。
「どうされましたかな、神官殿? 」
「ああ? なんでもねーよ……」
男から目を離し円形の広間を見ると、自分とこの男以外、誰の姿もなかった。