第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「まあいっか。ちょうど使えそうなものがあるわけだし、遠慮なく借りることにしよう」
偶然の発見とはいえ、この部屋を見つけたのはラッキーだ。
扉の外には今のところ誰の気配もないが、また誰かが通りかかる可能性がある。
このままの格好でいるよりも、この場所にあるもので変装した方が安全に決まっている。何かあっても、まぎれて逃げやすくなるはずだ。
ハイリアは早速、棚の中から自分の身の丈に合う服を選ぶと、服の上に被りこむようにして着込んだ。
部屋にあったホコリで汚れた鏡をこすり、姿を見てみると、見た目は立派な『銀行屋』の一員になっていた。
「着るだけで随分変わるわね……。しゃべりさえしなければ、バレなそう……」
変装をするなんていつぶりだろうか。キャラバンの副業で、お偉いさんのボディーガードをした時以来かもしれない。
廊下に誰もいないのを確かめて部屋の外に出ると、ハイリアは漆黒のルフが羽を休めていた石造りの扉へと向き合った。
大きな扉には、もう黒いルフの姿はない。きっと先程の『銀行屋』と一緒に、扉の中に行ってしまったのだろう。
── この中で『神事』が行われているのかしら……?
緊張しながら辺りに誰もいないか見渡して、ハイリアは扉に耳を当ててみた。
ひんやりとする石造りの扉の向こうから音はしない。誰かの話し声も、物音一つしてこない部屋の空気に違和感を覚える。
── え? さっき、人が入っていったはずなのに……。
不思議に思いながら、ハイリアが扉の柄に手をかけてそっと押してみたが、固く閉じた扉は開かなかった。
開ける方向を間違えたのかと思って、今度は引いてみたがビクともしない。
── え!? なんでよ!
先程の従者たちが鍵をかけたような音はしなかった。鍵穴も見当たらないし、鍵はついていないはずだ。なのに、扉が開かない。
「どういうこと!? 」
何度か、扉の柄をもって押して見たり、引いてみたりしたが変わらなかった。念のために横に引いてみたが、それも開かない。
全く開かない扉にイライラしていると、ジュダルが言っていたことが、ふと思い出されてはっとした。
そういえば、ジュダルは『神事』は魔導士でないと出来ないのだと、言っていなかったか?