第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
ルフに仕掛けたマゴイに気づかれやしないかと、表情を固めていたハイリアの耳に響いてきたのは、男たちの笑い声だった。
「こんな扉に引っかかるとは、よほど抜けた方のルフなのでしょうなあ」
「きっと鈍い方のルフなのでしょう。我らが向こうへ行けば、勝手についてくるでしょう」
軋むような音をたてて扉が開き、バタンッと音を立てて閉まった音が響いた。
途絶えた男たちの声と、無くなった気配に一気に緊張感が抜けて、ハイリアは大きなため息をついた。
── 見つかるかと思った……。
その場に座り込んでうつむいた足元に、うっすらと光る不気味な顔が見えて、思わず声を上げそうになり両手で口を押さえ込んだ。
よくみれば、顔を覆うマスクだった。
その側に転がっている丸っこい人形が浮かべる笑顔も、とても気持ちが悪いことに気づき、ハイリアは顔をしかめた。
「なんなのよ、この部屋は……? 」
部屋の床には趣味がいいとは到底思えない、人の顔が描かれた楕円形の人形がいくつも転がっていた。
ホコリを被っている棚の戸からは、白い布がはみ出していた。
中身が気になり、布を引っ張り出すように戸を引いて開けてみると、男性用の白装束であるカンドーラが出てきたから驚いた。
他の引き戸を開いてみると、被り物の白い布のクーフィーヤと、それを留める黒い紐のアガールまで出てきた。
── これって、『銀行屋』が着ているやつよね……? なんでこんな場所に?
疑問に思いながら、別の棚を開ければ、彼らがカンドーラの上に着ている黒い羽織物まで発見した。
「予備の服をしまっている衣裳部屋……? それにしては変な場所よね……。この人形は何なの? 」
薄暗い部屋を見渡しながら、ハイリアは側にあった人形を拾い見てみた。
不気味な人形は、どれもヒビが入り、欠け割れていて、壊れている。そして、どの人形の中心にも八芒星の図形が描かれていた。
── 変なの。いったい何なのかしら?
手に取った人形を元に戻すように床に転がすと、ハイリアは立ち上がって部屋の中を見渡した。