第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
静かに足を踏み入れた廊下は、中で左右に分かれているようだったが、ルフが指し示す扉へと向かう。
厳かな雰囲気をもつ石造りの扉まで飛んでいった黒いルフは、その扉にとまると羽根を休めるように羽ばたきを繰り返した。
── あの先に、ジュダルたちがいるのだろうか……。
腕を伸ばしてその扉に触れようとした瞬間、頭の中に低い声が響いた。
『人が来ます! 』
突然の声に、ハイリアは身体をびくりと震わせた。
── 何、いま声が……?!
驚きながら辺りを見渡しても誰もいない。それなのに、本当に誰かの足音がゆっくりと聞こえてきたから、あたふたとした。
今すぐに扉の中に入ってしまおうかと考えたが、この奥にジュダルがいるかもしれないと思うと、行動出来なかった。
他にどこか逃げ場所がないかと、目を動かしたすぐ側に、木目の扉が半分開いたままになっている部屋を見つけた。
── もう、何の部屋だかわからないけど、気にしてられないわ!
だんだんと近くなる足音を聞きながら、ハイリアは急いでそこの部屋へと滑り込んだ。
運がいいことに、部屋の中には誰もいなかった。
見渡した部屋の中は、ホコリを被った棚がいくつか置いてあり、床には丸い人形がゴロゴロと転がっていた。物置のような場所なのかもしれない。
ハイリアはゆっくりとその部屋の扉を閉めると、高まる鼓動を感じながら、その場で息をひそめた。
しばらくして、扉の側を通り過ぎる足音と、何かを話す男の声が聞こえてきた。
「『マギ』は、まだあの王と戯れを繰り返しているそうですね」
「困ったものです。そろそろ、あの王にも役目を果たしてもらわなければ……。おや、こんなところにルフが……」
「どなたのでしょうか? 珍しいですねぇ……」
聞こえてきた声に、ドキリとした。
── やばい、あのルフに気づかれた!?