第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
静かな廊下の先は、すぐに突き当りになっていた。
黒いルフは、そこを右へと曲がって行く。
建物の形に沿って、曲がっていく黒いルフを追いかけて道なりに進んでいくと、今度は左へと曲がって行った。
廊下の脇で枝分かれしている通路を、何本か無視して、まっすぐに黒いルフは飛んでいく。
入り組んだ通路に足を進めていると、だんだんと居場所がわからなくなってきた。
頭の中で追っていた宮廷の地図は、もう随分とぐちゃぐちゃになっている。思い描いている地図は、果たして合っているのだろうか。
帰り道のために、目立つものだけは記憶しているが、どこまで行くのだろうかと不安にもなってくる。
ここまで人に会わずにすんでいることは幸いだが、道を覚えるのは得意ではない。あまり奥へ行かれると、本当に戻れなくなりそうだ。
黒いルフは、また突き当たった通路を右へと曲がって行った。
今度はどこだろうかと思いながら、ゆっくりと覗き見た先は長い回廊だった。
調和のとれた庭石と緑の中に、朱色の回廊が続いている。
朱色の柱が等間隔でまっすぐに並ぶ回廊は、奥にある別棟の建物まで続いているようだった。
黒いルフはそこへ向かって飛んでいる。
── こんな場所、宮廷にあったんだ……。
長い回廊に足を踏み入れながら、ハイリアは朱色の柱にかけられた六角柱の提灯を見上げた。
等間隔で並ぶ柱とそろえるように、天井から吊り下げられている提灯が奥まで続く様は、どこか別世界に迷い込んだみたいな感覚を覚えるほどに、神秘的だった。
どこか不思議な空気のある回廊を通り、たどり着いた別棟は、煌の宮廷でみかける離宮や御殿の造りと変わらない。
手招くように開かれている扉の奥には、広い廊下がまっすぐに続いていた。
その奥に大きな石造りの扉が見えて、ハイリアは目を見開いた。
西の国でよくみかける造りの扉だ。なんで、あんな造りの扉がここにあるのだろう。
東方の建造物とは雰囲気が違う石造りの扉は、建物の中で一つだけ浮いているように見える。
その扉に向かって飛んでいく黒いルフの姿を見て、ハイリアは辺りに人の気配がないことを確かめると、別棟の中へと入りこんだ。