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【マギ*】 暁の月桂

第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕


掌の上でじっとしていた黒いルフは、急ぐ様子もなく、緩やかに飛び始めたからほっとした。

あとは、このルフを見失わないように追いかけていけばいい。それで、ジュダルたちがいる場所は掴めるはずだ。

ひらひらと飛ぶ黒いルフの後ろをついていく。

人の気がない広い廊下は、自分の足音が大きく響いているように聞こえて怖くなる。

自然と鼓動高まっていった。

こんなに緊張するのも、この先が地図でしか知らない場所だからかもしれない。

ここまで来るのだって、普段、滅多にないことなのだ。

文官の手伝いをしていたって、なかなか入る機会がない国の重要中枢に繋がる通路は、ただの武官である自分が、ふらふらしているような場所ではない。

ジュダルたちがこの先に行っているのだけはわかるだけに、ここを通らないわけにはいかないのだけれど、誰かに見つかった時に、誤魔化しが効く言い訳は、いったいいくつあるのだろうか。

皇子たちの名は、ばれた時にどう言い訳していいかわからないから、使えない。

文官の手伝いをしていると言ったって、今は何も書類を持っていないから、書類を届け終わった後だと言い訳をしたところで、それを使えるのは一回くらいだろう。

だいたい、朝議をしている今の時間に、いったい何を届けるというのだろうか……。自分を問い詰めてみても答えが出ないのだから、怪しまれそうだ。

だからといって、あの傍若無人の名前を出し、その側近であることを言い訳にするような状況だけは、絶対に避けなければいけない。

せっかく、ここまでのリスクを背負い込んで行動した意味が無くなってしまう。

よくよく考えると、何も言い訳ができない気がしてきて恐くなるが、そんなことを考えていたら進むことができなくなる。

今の時間は、皆が部屋にこもり、宮廷の人通りが少なくなる時間なのだ。そこに乗じて上手くやり過ごすしかない。

── とにかく、朝議が終わる前にさっさと居場所を見つけて、抜け出さないと!

広い通路から黒いルフは、左へと曲がって行った。

ルフを追って、ハイリアは通路の壁から慎重に顔を覗かせると、先の様子を伺った。

誰もいない廊下を、黒いルフだけがひらひらと飛んでいるのが見えて安堵する。

黒ルフに追いつくように、駆けると廊下にバタバタと自分の足音が響いたからヒヤリとした。
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