第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
朝議が始まった宮廷の中は、ひどく静かだった。
普段は官吏たちが溢れている廊下も、今は誰もいない。
木彫りの格子窓から覗く、重く厚い雲を眺めながら、ハイリアはため息をついた。
晴れない外の景色から目を離し、壁にもたれると、空よりも暗く見える広い廊下が目に入り、余計に気が滅入った。
ここは、宮廷のあらゆる場所につながる大動脈みたいな廊下だ。
入り組んだ回廊を通り過ぎた先は枝分かれして、様々な国の重要部へつながっているし、宮廷の離宮へ行くこともできる。
薄暗いせいか、緊張感のせいなのか、気分はいつまでたっても悪いままだが、始めなければいけない。
ふと、ジュダルの姿が脳裏をかすめたが、強く瞼を閉じて押し込めた。
── もう、決めたんだ。迷っちゃだめだ……!
耳を澄まし、気配を探り、辺りに誰もいないのを確認すると、ハイリアは服に隠していた小瓶を取り出した。
ビンの中では黒いルフが外へ出たそうに、ガラスの壁をつつきながら羽ばたいている。
そっと蓋をあけて、飛び立とうとした漆黒のルフを、ハイリアは両手で包むように握りしめると、ゆっくり一度、深呼吸をした。
手の中でビィービィーと騒ぐ、ルフの声を聞きながら、静かに漆黒のルフを掴む手にマゴイを送る。
白色に輝く光をじっと見つめて、耳を澄ませていると、ようやくルフの声が収まった。
── ここまでは、大丈夫……。
あとは彼のルフが、うまく言うことを聞いてくれるかだ。
マゴイ操作でこめた魔力がつきない間だけ、ルフを操作するこの方法は、白いルフでは何回か試したことがある。
しかし、黒いルフを扱うのは初めてだ。上手くいくかはわからない。
人を探す時に便利なこの方法で、白いルフに指示していたのは、思い描く「その人の元へ向かって飛べ」というものがほとんどだったけれど、黒いルフは性質が違う。
きっと何も言わなくても、宿主に引き寄せられるように飛んでいく。だから、指示することも、「ゆっくりと飛び、導け」と変えてみることにした。
緊張しながらマゴイを伝ってルフに指示を送った。
行動するだろう時間を考えて、ある程度の魔力をルフに宿し終えると、ハイリアはルフを包みこんでいた手を開いた。