第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
このまま何もしなければ、確実に手を出してくる女だ。
あいつを横取りされるのは許せない。だが、あいつを今、堕転させるつもりなんてなかったのだ。
拳を握りしめながらジュダルが立ち上がると、すぐに親父どもの声が響きわたった。
「八芒星の計画書のままに」
広間を囲む覆面の男たちから、一斉に無数の黒いルフが湧き上がった。
上空に集められたアレが、八芒星の中枢に立つ自分に向かって落ちてくるのだ。
いつもあの黒いルフ達の闇に堕とされて、眠らされる。
暗闇の中では嫌な音が響き、漆黒のルフに満たされているうちに、運命を恨み憎んだ、あの瞬間が思い出されて、ひどく気分が悪くなる。
暗黒を深めるには、その感情の増幅が必要らしいのだが、そんなの知ったことじゃない。ただ気持ちが悪いだけだ。
── こんなことを繰り返すようになったのは、いつからだ?
考えたところで、よくわからない。
記憶にあるのは、覆面の男たちと、仮面をかぶったような妖艶な女の姿ばかりだ。
幼いころから、思い出せる記憶には、必ずこの者たちがいる。
気づいた時には、この儀式をしていた。『神事』なんていう荘厳な名前が付けられた、不愉快な儀式を。
── ほんと、くだらねーな……。
「黒き御子に、我らが父の暗黒を」
声と共に、八芒星の上空に集められた漆黒のルフの大群が、自分に向かって落ちてきた。
無数の黒いルフが降り注いでくる光景は、闇が襲いかかってきているようにも見えて笑える。
── なんでおまえはいつも、思い通りにならねーんだよ?
瞬く間に視界が黒に覆われる中、漆黒とは対照的な白い姿を思い出した。
親父どもと同じような笑い方をする、ハイリアの姿が浮かんだ。
闇に呑み込まれた体に満ちてくる、黒いルフの感触に苛立ちを覚えながら、ジュダルは重くなってきた瞼を閉じて意識を手放した。